DM史:零れた水は(GP7th/えんがわ/HARU/ ZweiLance/ dotto)

限定構築という概念が生まれたのは、不死鳥編が発売された2006年のこと。春先におこなわれた公式大会、スプリングギャラクシーリーグ(SGL)で採用された” アフタージェネレートリーグ “がそうだ。

転生編の4エキスパンションに加え、大規模な再録パックであるベストチャレンジャー、コロコロ・ドリーム・パックのみが使用可能となるレギュレーション。
祖先であるMtGに倣い、DMにおけるスタンダード導入の先駆けとなるはずだったAG限定構築はしかし、1枚のカードによって暗転する。

《ボルメテウス・サファイア・ドラゴン》。

2006年2月に登場したこのカードは《大勇者「ふたつ牙」》を相方に、SGLを蹂躙。勢いそのままに殿堂レギュレーションをも征服し、翌2007年の1月にプレミアム殿堂入りすることになる。

カードプールが狭い上、「聖拳編より弱い」とされる転生編に基盤を依存したAG限定構築で《ボルメテウス・サファイア・ドラゴン》を止められるはずもなく。
氷河期と呼ばれた不死鳥編がデュエル・マスターズの売り上げを半減させたこととも相まって、限定構築という概念そのものがゲームから忘れ去られてしまった。

 

 

そんな限定構築がトーナメントシーンの最前線へ返り咲いたのは2010年、覚醒編。
それまで殿堂レギュレーションが採用され続けてきたエリア予選が一転、ブロック限定構築の大会となった。

伏線はあった。
この年に初めて導入された超次元ゾーンは、カードパワーのインフレやゲームの複雑化についていけないプレイヤーを大量に生み出した。不死鳥編と同程度にとどまった覚醒編の売り上げからも、そのことが窺い知れる。

ある意味で、超次元ゾーンはふるいだった。その登場を受け入れた選手たちは、限定構築をも許容した。
2007年ごろから、CS文化が各地で広がり始めていたことも決して無関係ではないだろう。

重要なのは、競技に相応しい場が用意されていることだった。場があるのなら、それが限定構築でも構わなかった。

 

 

エリア予選への導入が転機となり、限定構築は少しずつ拡大していった。2015年からは、エリア予選に向けた店舗予選でも限定構築の採用が決定。
この頃になるとエリア予選でも卓制が廃止され、CS同様にスイスドローが導入される。

そして2018年。競技層向けの新たなレギュレーションとして、2ブロック限定構築の新設が発表された。

そこでしか獲得出来ないプロモーションカードの存在も相まって、春先には多くの2ブロックのCSが開催された。ついに限定構築が殿堂構築よりもメジャーになる日が来たかに見えた。
のだが。

8月ごろには、再び殿堂レギュレーションのCSが勢力を盛り返していた。2ブロックのCSも開催されていないわけではなかったが、規定の人数に達せず不成立、という事態がしばしば起こっていた。

結局のところ、ほとんどの選手にとって、限定構築とはエリア予選だったのだ。全国大会への道のりに置かれている障害物の1つに過ぎなかったのだ。
彼らにとって、限定構築は殿堂構築を超えるものでは無かったのである。日本一決定戦への出場権利というおまけが付かない限り。
限定構築というゲームそれ自体が選手を引きつけていたわけでは、無かったのだ。

それが、GP7thで変わった。

 

 

もうこのゲームをやめようと思っていたと、優勝したえんがわは言う。
長野から上京しておよそ1年半、GPにも超CSにも全て参加してきた。全力でデュエル・マスターズを遊び続けてきた。

だが行き詰まりを感じていたと、彼は振り返る。
カードパワーは上がり、ゲームの決着速度は早まった。それによって技術介入の幅が狭まったように感じられたのだと。
勝ちにも負けにも納得のない日々。やり込むほどに溢れる閉塞感。

もう、終わりで良いと思っていた。この大会で最後にしようと思っていた。

それが、GP7thで変わった。

 

 

えんがわ、HARUZweiLance、そしてdottoがベスト4に集ったあの日、彼らの間で何があったのか。
4人ともが、取材に応じてくれた。

「あの日は、本当に楽しかった」

そう口火を切ったのは、えんがわだった。

 

 

えんがわが身を置く本厚木勢で主にデッキビルダーとして活動していたのは、◆斎藤が率いたHeaven’s Diceの出身者だった。名をtaiseiと言う。

taiseiがビルダーとして頭角を表すきっかけとなったのは、2017年2月のHeaven’s Dice休止だ。
それまでずっと◆斎藤の背中を追って来た彼は、いざ◆斎藤が郷里に帰る段になって初めて気づいた。
自分にとって” デュエル・マスターズをプレイする “とは” ◆斎藤の背中を追い、意見を交わす “ことと同義だったのだと。

その◆斎藤が、いなくなってしまう。自分は、これからどうすれば良いのか。 

taiseiが得た結論はシンプルだった。腹を括ったと言う方が適切かもしれない。
もう、◆斎藤はいない。自分でやらなければ。
そう思った。

それから数ヶ月も経たぬうちに、taiseiは改めて自身の名を世に送り出すことになる。『青白ロージア』のビルドによって。

そのtaiseiに対し、ランキング1位をひた走っていた滋賀のHARUが共闘を持ちかけたのは必然と言えるだろう。

 

 

HARUにとって、公式大会へ向けての調整は積年の課題だった。なにせ滋賀県は、2017年に初めてCSが開催されたような地域だ。恵まれた環境などあろうはずもない。遠隔地のプレイヤーと連絡を取り合い、調整の糧にしようとするのも頷ける。
HARUはtaiseiの他、かつて紅茶派閥のリーダーを務めた夜桜、GP5th優勝のナツメら関西圏でCSに出場している選手を誘い、LINEで調整グループを立ち上げた。

遠隔地同士であるがゆえ、直接会っての練習は難しい。毎週CSに出場し、その結果を共有することにした。細やかなプレイングが気になれば、教え合う。

HARUにとっては慣れた手順だった。時間がないときは知り合いにデッキを貸し、大会が終わった後に試合の様子を聞いて、自らの経験値としていたから。
試合展開を教わるだけで十分だ。聞けばおおよそのことは分かる。それをまたtaiseiらにフィードバックする。

GPの1週間ほど前、taiseiたちは『白零サッヴァーク』と言う結論に辿り着いていた。GP前の最後のパックとなるDMRP-07の発売時点で、関西勢がいち早く到達していたアーキタイプだ。
この頃になると、流石に他地域にも少しずつ情報が漏れ始めていたものの、それでも研究の深さに関しては関西勢がトップだったと推察される。

そんなところにやって来たのがえんがわだった。

 

 

えんがわは、GPの10日ほど前から2ブロックの研究を始めていた。少し『緑ジョーカーズ』を触ってみたものの、まるでダメだったのでtaiseiの元を訪れたのである。

決してGPを甘く見ていたわけではない。だが、どうにも乗り気ではなかった。

競技イベントに憧れ、長野から上京して1年半。文字通り、デュエル・マスターズにどっぷりと漬かった日々を過ごした。けれど、もう潮時かもしれないと思っている。
決して来年に控えた就職の影響ばかりではない。

かつて彼が憧れた競技DMは、時間が止まっているのかと錯覚するほどに濃密な戦いのはずだった。多くのイベントに出てアベレージを競うような、戦いの時間を薄めに薄めたものではなかった。

現代の競技DMは、かつてとは違う。毎週、どこかでCSが開かれるほどに発展した競技シーンは、プレイヤーから調整時間を奪い去った。えんがわの求めた決闘は、たった1日のために全精力を傾けるようなゲームは、失われてしまったように見えた。

どれだけ調整を重ねても、それをぶつける相手がいない。ぶつける場所がない。
自分が変わったのか、ゲームが変わったのかは分からない。

だからこそ潮時だろうと、そう思っていた。

 

 

デッキがない、と言うえんがわにtaiseiは驚いた。あと1週間だよ、と問うと、相手は重々しく頷く。

「そうだよ、ヤバいんだよ」

マジにヤバいのかよと心中密かに突っ込んだtaiseiだったが顔には出さず、代わりに『白零サッヴァーク』を教えた。
《サッヴァークDG》型にするか《煌メク聖戦 絶十》型にするか、という点ではHARUとの間で意見の食い違いがあったものの、taiseiは《サッヴァークDG》型を結論としている。

えんがわは疑うことなく受け取り、そこからの1週間を練習に費やした。

一方の《煌メク聖戦 絶十》型を推していたHARUも、GP直前の土曜に《サッヴァークDG》型を使ってみると意見が変わり、えんがわとHARUは同じアーキタイプでGPへ赴くこととなった。

 

 

2018年10月8日、祝日の月曜日。京都パルスプラザ。

気の早い遠征勢は土曜日から前入りして現地のCSに出場し、GPに備えていた。一部の選手などは本命デッキを隠して京都のCSに出場し、現地のメタゲームを探る徹底ぶりである。

その京都のCSでは、まるで知られていなかった『青赤覇道』が1位、3位にダブル入賞するという波乱があった。

ほとんどのプレイヤーは、2ブロックには《異端流し オニカマス》がいないものとしてデッキを組んでいたので、その《異端流し オニカマス》を採用した『青赤覇道』の登場には驚いたようだ。
カバレージライターと競技プレイヤー、二足のわらじを履く関西のイヌ科などは、驚きのあまり『青赤覇道』に乗り換えてしまったほどである。

もっともこのアーキタイプ自体は関東のユーリらが秘匿していたものであり、taiseiは存在を知っていた。
その上で組み上げた『白零サッヴァーク』である。今更、選択が揺らぐはずもない。

 

 

1bye持ちのえんがわのGPは、2回戦から始まった。初戦を勝利した直後に1敗したものの、そこからは6連勝し、7-1で予選抜け。
続く決勝トーナメントでも瞬く間に4連勝し、ベスト8入りを決めた。

鬱屈した気分はどこかにすっ飛んでいた。1週間の練習は、えんがわの全てのプレイに根拠と確信を与えていた。
彼には、自分の打つ手が勝ちに繋がっていることが分かった。絶えて久しい、もう出会うことはないと思っていた感覚だった。

それを、準々決勝が加速させる。

 

 

2ブロックは実力差の出るゲーム、というのは嘘ではないようだった。ベスト4を賭けて争う相手は、GP3rd優勝のW。
互いに1勝し、迎えた最終戦でそれは起こった。

Game3。
長丁場の疲れゆえか、Wにミスが生じたのだ。

えんがわが《煌世主 サッヴァーク†》だけを置いた場に、Wは《“必駆”蛮触礼亞》経由で《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》を送り込んでしまった。《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》は戦場の露と消え、えんがわは勝利を拾う。

GP3rdで優勝したWほどの選手ですら、極限の状況ではミスが出ることもある。えんがわにとっては驚きであり、同時に救いでもあった。

驚きは、どんな強豪も人間であるということ。
救いは、これがミスした側の負けるゲームであるということ。

まさしく、これこそが自分の求めた場だったのだと。
次の対戦相手を見て、えんがわは確信した。

 

 

時刻は19時半を回っただろうか。
観戦者たちのSNSを通じて、会場外にも状況が伝わり始め、熱気は最高潮に達しようとしていた。

7thは、初めて2ブロックで開催されたGPだ。そのベスト4に、えんがわ、HARU、ZweiLance、dottoの4人がいた。
そんなことがあるのか、と会場が沸く。

このフォーマットは、多くの選手から低い評価を受けていた。それは今年の春先、『ジョーカーズ』ばかりが入賞していた時期の印象に起因する。
運の要素ばかりが目立つゲームだと、大多数がそう受け止めていた。

だが、今やそのイメージは雲散霧消した。残った4人は紛れもなく真摯に努力していた上、そのことをよく知られている選手ばかりだった。この結果を評価しないことなど、誰にも出来はしない。

興奮しているのはギャラリーばかりではない。運営に回ったユーザーたちも同じだった。
その日の仕事を終えたジャッジは、誰かが持ち込んだタブレットにかじりついて、生中継を見ていた。仕事を終えていないジャッジは、職務として準決勝卓に赴いた。
つまり、誰も彼もがこの戦いを見ようとしていたわけだ。

えんがわ VS dottoを。
HARU VS ZweiLanceを。

スプリングギャラクシーリーグから12年。旅路の果てに、限定構築は本物の熱狂を手に入れた。

 

 

えんがわが呼ばれたのはフィーチャー卓だった。
目の前の男に会ったことはない。直接、見るのも初めてだ。

dottoの纏う空気が、その実力を強烈に主張して来た。
彼の強さを知るために対戦する必要などなかった。一目見ただけで強いと分かった。ぶっ壊れたカードのテキストを1度読んだだけで強いと分かるように分かった。ありもしない圧力を感じた。

でも、とえんがわは思う。
相手も、人間なのだ。例えば3ターン目に現れる《蒼き団長 ドギラゴン剣》のような、そんな理不尽に抗う術など有りはしない。

その思いは、直前のWとの対戦に由来する。
相手も人間なのだ。強豪も人間なのだ。
過度に恐れる必要はない。

それに、彼はtaiseiのことを信じていた。

1週間、このデッキだけを練習してきた。このデッキが世界で一番良いデッキだと、彼は信じていた。

taiseiがそう言ったのだから。これ以上のデッキなど、有りはしないのだ。

 

 

勝敗は互いのプレイングスキルに依存するだろうと、えんがわの対面に座すdottoは考える。

相手は『白零サッヴァーク』。自分は『青赤緑チェンジザ覇道』。
もしえんがわの『白零サッヴァーク』が《煌メク聖戦 絶十》を採用したタイプなら、dotto有利だったろう。けれど、相手は《戦慄のプレリュード》からの《サッヴァークDG》を狙う型だ。
ミスをした方が、負ける。

あと2勝。昨年度に日本一を獲り、ランキング1位を獲った自分が残していたタイトルまで2勝。
ひとまずここを勝てば、全国大会の権利が手に入る。だが、それだけではダメなのだ。

この準決勝を勝ち、決勝をも勝たねば、dottoにとっては意味がないのだ。

 

 

dottoの『青赤緑チェンジザ覇道』は、一般的なリストとは異なっている。《終末の時計 ザ・クロック》、そして《ドンジャングルS7》両方を採用しているのだ。

他選手のリストで採用されているのは、いずれか片方のみ。だが《終末の時計 ザ・クロック》だけでは決定力を欠き、《ドンジャングルS7》だけでは防御力を欠くと、dottoは結論づけている。
だから、入れるなら両方だ。

2016年の関西エリア代表であるけみーと、たった2人で到達した40枚。2人だけでの調整は無謀とも思えたが、彼らは難なくやってのけた。

この2人は恐るべきことに、『白零サッヴァーク』と『青赤緑チェンジザ覇道』というアーキタイプを、この準決勝でえんがわとdottoが戦わせているアーキタイプを、GPより遡ること3週間前の時点で組み上げていた。
GP前、最後のカードパックが追加されたその日のうちに。

『白零サッヴァーク』を選ばなかったのは、プレイの厄介さによる。序盤のマナ置きの判断に、次のドローやシールドの中身といった非公開情報が絡むデッキをdottoは嫌った。
不条理な2択ほど、敗北につながりやすいものはない。

さりとて一般的な構築から外れ、《終末の時計 ザ・クロック》と《ドンジャングルS7》を採用するという独自の道を行くのは容易ではない。

だから選んだ。先んじる為に。勝つ為に。
容易な道の先に、栄光などない。

無理やり枠を空け、緻密な調整を繰り返し。そうした修練の果てに今、dottoは準決勝を戦っている。

 

 

だが、プレイングの面で互いが互いを上回ることはなかった。
100%より上は無いからだ。

完璧な者同士が対戦し、その2人が正着手を指し続けたとき…後に残るのは天の気紛れだけである。

 

 

Game1は、dotto有利のまま終盤へ突入しようとしていた。
えんがわは《煌世主 サッヴァーク†》の早出しに成功していたものの、シールドゾーンのサバキZが足らず、dottoに《父なる大地》で処理されている。

そこから《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》による2度の追加ターンを含む、3ターンに渡るdottoの猛攻をえんがわは凌いだ。
しかし1ターンで形成を立て直せるはずもなく。dottoにターンが渡ると、ゲームの終わりは近いように思われた。

dottoの詰めは完璧だった。えんがわの楯にトリガーがあるとしても、《隻眼ノ裁キ》でさえ無ければ間違いなく勝っていた。

だが、えんがわの最後の楯からトリガーしたのは《隻眼ノ裁キ》。《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》をタップしたことでシールドが残り、えんがわは命を拾う。返しのターンで《煌龍 サッヴァーク》に《天ニ煌メク龍終ノ裁キ》を絡め、ゲームを決めた。

続くGame2は、えんがわが最速で《煌世主 サッヴァーク†》をバトルゾーンへ。今度はサバキZも揃っており、勢いそのままに勝利を収めた。

 

 

あと、1ターンだった。えんがわが2枚の《天ニ煌メク龍終ノ裁キ》を手にする方が、わずかに早かった。
相手は上手かったとdottoは認める。

「彼のプレイは100点でした。かなりやり込んでいるんだろうなというのが伝わって来ました。もしそうでなければ、Game1の《隻眼ノ裁キ》が有効に働く事はなかったでしょう」

これしかないというカードが、これしかないというタイミングでシールドから現れた。運、と言えなくもない。けれど、dottoはそれを運と呼ばない。
実力のない人間は、運を生かせない。ならばこれは実力だろうと、率直に対戦相手を称えた。

 

 

一方の卓では、えんがわと同じく準決勝に進出したHARUと、ZweiLanceが戦っていた。

 

 

ZweiLanceが初めてCSに出場したのは、2013年のこと。学業の都合で、北海道の奥地から札幌に移り住んだ彼はセキボンに誘われ、2日続けて開催されていた第4回仙台CS、そしておやつCS 2013 Summer東北に出場する。 

札幌から仙台までは、陸路でいけばおよそ800km。生まれた時から北海道に住んでいたZweiLanceにとって、これが一番近いCSだった。
学生だった彼は、フェリーに揺られて現地まで向かったという。

「フェリーの中って、電波が入らないんですよね。だから、デュエル・マスターズだけに集中出来て…最高の調整環境でした。
 酔い止めを飲んで、ずっとデッキを回してましたよ」

過去を振り返って苦笑する彼は、その年から遠征を始めた。魅入られたように。
デュエル・マスターズを始めたのは転生編、2005年。その名の由来である《クリスタル・ツヴァイランサー》とともに第一歩を踏み出した。あの時は、遊べる場所も相手もわずかしかいなかった。
でも、もう違う。CSに行くだけで良い。

遊べる相手がいる幸せ。大会に出場できる幸せ。それを知った彼は、長い休みの度に遠征するようになる。
社会人になってからは頻度も増え、ランキングの上位を走り、そして今日。この場に至る。2000人が参加する大会の、準決勝に。

相対するHARUとは、知らぬ仲ではない。
どころか、単なる付き合い以上のものが2人の間にはあると、ZweiLanceは感じている。

 

 

2ヶ月ほど前、今年の盆のことだ。関西まで遠征し、現地のCSに出ていたZweiLanceは、準々決勝でHARUとマッチングした。
そこでミスを犯し、結果として負けている。

「HARU君の雰囲気に飲まれちゃったんです。対戦中の彼から言語化出来ない怖さを感じて、この人には勝てないと思い込んでしまった」

上手さと強さは違う、とZweiLanceは考えている。

「練習でどれだけ正着手を導き出せたとしても、大会でその手を選べるかどうかは別じゃないですか。友人と遊んでいる時だろうと、あの熱気に満ち満ちた会場の中だろうと、正解のプレイに到達できなければ意味がない。
 そうした、環境に左右されないメンタルの強さを持つ選手こそが、本当の強者だと思うんです」

象徴的なエピソードがある。

1時間ほど前に行われた、ベスト16を決める試合。ZweiLanceが対戦した相手は、旧知の鳶沢だった。デッキは同じ、『デ・スザーク』。40枚同じミラーマッチ。
その試合は鳶沢のミスから崩れ、ZweiLanceが勝っている。

試合後、鳶沢は「ZweiLanceの雰囲気がとても怖かった」と語ったそうだ。それゆえに1手、誤ったと。

ZweiLance自身に、そんな空気を纏った自覚はない。だがそれを聞いて、自分の成長を確信した。

それだけではない。
この準決勝まで、今日のZweiLanceは1度も負けていないのだ。

あらゆる勝負事に運は付き物だ。無敗だなんて、デュエル・マスターズは狙ってそんなことが出来るゲームでない。それはZweiLance自身が一番良く知っている。

だからこそ、いけると思った。今日は自分の日だと、流れが来ている日だと、準々決勝を終えたさっきまでは確かにそう思っていた。

 

 

が。
そこに来ての、HARUである。
まだ、負けのイメージを払拭出来ていない。自覚がある。

目を見ないようにしようと思った。HARUの目を見ずに、盤面だけを見て戦おう。飲まれないようにしようと、そう思っていた。

 

 

その盤面を見つめるZweiLanceの目前に。
つ、と《奇石 ミクセル》が差し出されたのは、Game1の2ターン目だった。

HARUの『白零サッヴァーク』は、サバキZを盾に揃えるデッキだ。序盤は楽ではない手札のやりくりを強いられる。
いかにHARUが後手であろうと、手札が1枚多かろうと、ここでの《奇石 ミクセル》は明らかに定石から外れている。

この準決勝で勝てば、全国大会の権利が手に入る。今日の、事実上の最終ゲームと言ってもいい。
だのに思考時間を要することもなく、HARUは一瞬でこの手を選択した。

taiseiは、これを「きっと他の誰にも出来ないプレイだ」と語る。

「GPの準決勝という大舞台で、相手の逆を突くプレイがノータイムで選択できるのは凄いですよ。あの手を選ぶにしても、普通なら多少は考えてしまうと思います。自分も例外ではありません」

このHARUの1手が恐るべき意味を持ってZweiLanceの前に立ち上がって来たのは、2ターン後のことだった。

 

 

先手の4ターン目を迎えたZweiLanceには、2つの選択肢があった。
《堕魔 ヴォーミラ》を出すか、《追憶人形ラビリピト》を出すか。

まだ《卍月 ガ・リュザーク 卍》の準備は整っていない。
が、HARUの手札は4枚。《奇石 ミクセル》を出したことで、1枚減っている。

5枚だったなら迷わなかったと、のちにZweiLanceは回想している。迷わず《堕魔 ヴォーミラ》を召喚していただろうと。
だが、4枚の手札を見て揺らいだ。

いけるんじゃないか。《追憶人形ラビリピト》を出しても、除去されないんじゃないか。

《卍 デ・スザーク 卍》、あるいは《卍月 ガ・リュザーク 卍》を出せるようになるまで、《追憶人形ラビリピト》を温存するのが定石だ。半年もこのデッキを使い続けた彼は、そのことをよく知っている。
先手の4ターン目に、その準備が整っていようはずもない。

だが。
この時、ZweiLanceがバトルゾーンへ送り込んだのは《追憶人形ラビリピト》だった。

 

 

《追憶人形ラビリピト》の効果で、HARUの手札から《煌世主 サッヴァーク†》が墓地へ落ちたものの、そこまでだった。返すターンで彼は、直前に手札に加えていた《転生ノ正裁Z》経由で《魂穿ツ煌世ノ正裁Z》を唱え、《追憶人形ラビリピト》を除去。
このターンが分水嶺となり、盛り返せずにZweiLanceは敗北。続くGame2も、それまでの連勝が嘘のようにあっさりと落とした。
掴みかけた全国への切符は、水のように手の隙間から零れ落ちていった。

 

 

結果的に、HARUの一手はとんでもない効果を持っていたことになる。破竹の勢いであり、勝負手をしっかりと掴んでいたZweiLanceをゲームから降ろしてしまった。

しかし、なぜこの手を選択できたのか。
《奇石 ミクセル》を召喚する直前のターン、ZweiLanceが《堕魔 ドゥシーザ》をマナに置いている。それゆえの判断か。

「違います。相手がマナに置いたからもう持ってないだろう、という考え方には賛同できません。置くぐらいだからまだ持ってる、と考えるべきです。
 チーム戦でも、組む相手に必ず言うんですよね…そんな考え方は絶対しないでくれって」

ではなぜ、この一手に至ったのか。
覚えてないんですよね、とHARUはあっさり言った。

「この試合に限った話じゃなくて、いつもそうなんですが…細かい内容を覚えてないんですよ、僕。
 《奇石 ミクセル》は…置いておけば、相手がどこかのタイミングで除去にマナを使わなきゃいけません。それなら良いやと思って出したんじゃないでしょうか」

常人の回答ではない。

2000人が集った大会の準決勝で、悩むこともなく瞬時に放った定石外の一手が相手を退けた。
ビルダーたるtaiseiですらが慨嘆したそれに耽溺することもなく、覚えていないと切り捨てる。切り捨てられる。

ZweiLanceは、強靭な精神を持つ者こそが強者だと言う。
その定義に則れば、HARUは正しく強者だろう。

 

 

準決勝が終わってから10分ばかり、ZweiLanceは動けなかった。自分が何をしたのか、彼自身が一番よくわかっていた。

ギャラリーにはペン山がいた。泣き崩れている彼が、ZweiLanceの視界の隅に映り込む。

ペン山ほどZweiLanceの勝利を信じ、応援していた人間はいないだろう。ZweiLanceが毎週のようにCSを行脚出来たのも、彼がドライバーとして車を出してくれていたからだ。
その運転は、多い月で数千キロに及んだ。北陸にも関西にも、彼が連れて行ってくれた。

同じランキングを走る、いわばライバルでありながら、ペン山は自分をリスペクトしてくれている。そのことをZweiLanceは分かっていた。

そう、分かっていた。上手さと強さの違いも。HARUが手強いことも。ここでミスを犯してはいけないことも。ペン山がすぐそばで応援してくれていることも。分かっていた。なのに、それなのに。

 

 

俺は何をやっているんだ。

 

 

卓を囲む群衆からペン山が離れるまで、ZweiLanceもその場を離れられなかった。
3決など忘れてこのまま帰れたのなら、どんなにか幸せだったろう。

 

 

イベントの進行速度によっては3位決定戦と決勝戦が同時に実施される見込みだったが、スケジュールには余裕があった。
3位決定戦のことは、あまり覚えていないとZweiLanceは言う。直前の結果ゆえか。

dottoの方も、気乗りしていないようだった。最後の順位決めとは言え、3位でも4位でもポイントは変わらないし、全国大会の権利も手に入らない。

結局、おやつCS summer 2018 Final以来となるZweiLanceとdottoとの再戦は、その時と同じようにZweiLanceが勝利を収めた。

残すは決勝戦のみである。

 

 

2人の戦いによって生まれた唐突な休憩を、えんがわは最後の練習に費やした。
HARU、えんがわはともに相手のデッキを知っている。デッキを共有したと、taiseiから聞いている。

アーキタイプは同じだが、リストはわずかに異なっていた。
HARUが4枚の《戦慄のプレリュード》を入れているところを、えんがわは3枚。代わりに2枚目の《煌龍 サッヴァーク》を入れている。

1枚差で相手が有利、とHARUは見ていた。《戦慄のプレリュード》は同型で腐りやすい。

対するえんがわは落ち着いている。HARUが《サッヴァークDG》型の『白零サッヴァーク』を選んだのは2日前、土曜のことだと聞いた。
ミラーも含めて練習して来た自分に利がある、と踏んだ。

 

 

Game1、そしてGame2も、HARUの理はえんがわの利に届かなかった。
彼の前に《煌龍 サッヴァーク》が立ちはだかり、行く手を阻み。
程なくして、えんがわが優勝した。

 

 

あの日の3位決定戦を振り返り、「最近は気持ちの切り替えがうまくいっていない」とdottoは言う。

「1つの負けを気にしすぎていると言うか…負けると色々言われちゃうんですよね。だからなのか、集中力の落ち方がひどくて。
 勝負所で落としちゃっている試合が、今シーズンはいくつかあるんです」

その姿は先代の関西王者、あばばばと被る。彼もまた、日本一を獲った後に苦しんだ。
だがdottoは既に順位を1桁に押し上げ、全国への権利を逃したとは言えGP4位入賞。昨年の今頃はランキングの30-40位を上下し、GPでも予選抜けを逃していたことを考えれば、むしろ調子は上がっている。

しかし、dottoの顔に納得の色は無い。
きっと彼は、100試合で99勝を挙げたとしても残る1つの負けに思い悩み、勝ちに変えようと挑むのだろう。
既に頂点を知った後だというのに、彼は歩みを止めない。その目は既に、日本一決定戦へ向いている。

 

 

日本一決定戦へ思いを馳せるのは、ZweiLanceも同じだ。

「HARU君に負けたままでは終われません。彼が来るのなら、自分も行かなきゃいけない。そう思ってます」

日本一決定戦へ行く。それはHARUと戦うための手段に過ぎない。HARUに勝たなければ、作った借りは返せない。
もちろん日本一も獲りたいですけどねと、彼は笑う。

まだシーズンは終わっていない。すぐにエリア予選が訪れる。
気力は充実している。こぼれた水はまた汲めば良い。
この男もまた、あの場所へとやって来るのだろう。頂点に立つ為に。HARUに勝つ為に。

 

 

そのHARUは、日本一決定戦への出場確定を素直に喜んでいた。
これまでの公式大会における最高戦績はベスト16だったが、その壁も超えた。着実な前進を実感している。

そんな勢いのある彼をして、強いと言わしめる存在がいる。dottoだ。

「昨年冬の、白緑メタリカの頃から意見交換するようになりました。
 あの人の行動は全てに理由があって、無駄な行動なんて一切ない。例えるなら…陳腐かもしれませんが、2ターン目にクリーチャーを召喚した時点で、それによるダイレクトアタックを見越している、と言えば伝わるでしょうか」

自分にないものをdottoは持っている、とHARUは言う。

「自分は、目の前の盤面に対して最適解を導き出すタイプ。他方で、dottoさんは試合の行き着く先をあらかじめ知っていて、そこへ一手ずつ向かって行くようなタイプ。なかなか真似できるものじゃありません」

ランキングの後半戦から解放され、残すは日本一のみ。道は開けた。
あとは、勝つだけだ。

 

 

そして。

 

 

あの決勝の直後、えんがわが覚えたのは安堵でもなく疲労でもなく、軽い喪失感だった。
今日の分は、これで終わりなのか。興奮するギャラリーに囲まれた彼は、そんな感想を得ていた。

すぐに中継席に呼ばれるも、さしてコメントも出さぬうちに、司会から「ではそろそろお開きに…」の声。
まだ20時なのに?と首を傾げながらブースの外に出た彼は、何気無く時計に目をやって呆気にとられた。既に短針は10を回っている。22時。
まるで気がつかなかった。過ぎた時間の割にやたらと喉が乾くと思っていたが、あれは正常な反応だったのか。
 
ほ、と息を吐き。会場を見渡して。
彼は不思議な感慨に囚われた。

 

 

なぁんだ。
デュエル・マスターズ、ちゃんと面白いんじゃないか。

 

 

「もう終わりでもいいと思ってたんですけどね、そんなことはなかった」

語る口調に、GP前の翳りはもうない。
W、dotto、HARU…強者たちとの戦いの中に、彼の求めた濃密な時間は確かに存在したのだ。ゲームは変わってなどいなかった。

 

 

だから、とえんがわは言う。屈託のない笑顔とともに。

「デュエル・マスターズ、やめらんねぇな!」

 


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